受け付け済み設定集

番外編 By Ciella 「あら、リン! なにをしているの!?」
ソングに呼び止められたのは、本当に突然だった。
リンが自分の島をハロウィン用に飾りつけていた最中のことである。
軽い音と共に不意に飛び込んできたソングは、まるで、リンがなにかとんでもなく悪いことをしているかのように叫んだのだ。
「島の飾りつけなんて、後よあと! そんなもの、ハロウィンが終わってからで充分だわ!」
「…はぁ…?」
ハロウィンの後に島を飾って、何の意味があるのだろうか…。
人にははわけがわからないと言われるリンだが、実はこのソングこそよくわからないとリンは思う。
「そんなことより、よ! 早く、仮装しなくっちゃ! パキケフーズに突撃するのよっ!!」
今日はハロウィン。パキケフーズややどかり亭、それにヤミーショップなどでは、お菓子を用意してくれている。
また、今年はビギナーズパークやキュラノスウッズ、GLL城の火ノ間やイベント広場などにもお菓子がちりばめられて、ソングとしては嬉しい限りだとは思うが…。
それにしても、張り切っている。
「ほら、ボケっとしてないで! 仮装はなににするか、考えてあるの?」
「…えと…モイモイさんかぶって、ピキになるつもりだけど…」
「ピキですって? そんなつまらないもの、おやめなさいな! 私がもっといいのを考えてあげるわ!」
つまらないと言われたリヴリー界100万匹(推定)のピキさんゴメンナサイ…。
リンは心の中で謝った。
ソングの基準は、普通の定規では差し測れないのだ。
「…えーとぉ…」
ソングはものすごく嬉しそうに、なにやらビラビラした洋服を取り出した。
「さ、着るのよ!」
有無を言わせずリンにそれを着せてしまう。
「なかなか似合うわ。さ、これを持って!」
持たされたものは、ほうき。どこにでもある、あの庭をはくアレだ。
ついでとばかりに、頭に乗せていたフェイクファーハットそっくりのモイモイさんの上に、トンガリ帽子をずぼっとかぶせられた。
「ぷぎゅっ」
モイモイさんの苦しげな声が聞こえる。
…つぶれてやしないだろうか…。
いや、大丈夫そうだ。三角帽子のつばの下から、深い色合いのシッポがぴょこぴょこ揺れている。
…どうやら楽しんでいるようだ。
「…でも、どうして魔女なの?」
そう、リンの衣裳は、ハロウィンの定番ともいえる、魔女。
「バカね、リン。よく見なさい!」
見れば…そう、衣裳が微妙に違う。
普通の魔女の衣裳は、なんというかこう、長くてずるずるとしているものだと思うが…。
リンが着ているのは、超ミニなスカートに、びらびらのペチコートがついている。
胸元も大きく開いて、そこになぜかクロスのネックレスをかけさせられたりして。
「…妙にかわいい服だけど…」
「そうよ。かわいいのよ」
「…うん…けど、なんで…?」
本気でわからないという顔をしているリンに、ソングはあきれたようなため息をついた。
「リン、あなた、笑ってごらんなさい」
「…え…」
普段は積極的に笑う方ではないが、笑えといわれて笑えないほどでもない。
にっこり微笑んでみると…。
「そうよ。それでいいわ」
「…は?」
「いい、常に笑っていること。約束よ!」
強引に指きりなどさせられて、リンはあれよあれよと言う間に連れ去られてしまったのだった…。



そのころ、ホンディエは島で読書などしていた。
今日はハロウィン。わかってはいるが、そんなものに振り回されるホンディエではない。
頭の上のクロムシと共に、無心に本を読んでいる。
「おーい、ホンディエ。三連キャンドルはこっちでいいか?」
夢中で読書をしているときに話しかけられるのは好きではないが、特にそれで困ることもない。
「ああ、うん」
適当な生返事を返すだけである。
「パックンパンプキンはこっちに置きますよ」
「…ええ」
「じゃあこのかぼちゃBは…こっちだな」
「…ですねぇ…」
ホンディエは本から顔を上げることはない。視線の先ですら、つらつらと並ぶ文字から逸らしもしない。
そう、彼女はまったく聞いていないのだ。
聞いていないけれど、気にしない。彼女の背後で、彼女自身の島がどうなろうとも。
今の彼女は、ただ夢中で目の前の本に目を走らせるだけだ。
そして、そんな反応を気にするでもなく…二人の男たちは、勝手にホンディエの島を飾りつける。
これはもう、いつものことだった。かならずと言っていいほど、クリスマスにしろ花火大会にしろ、この男たちはホンディエの島に集い、飾りつけてパーティまで開くのだ。
「さてと…こんなもんか」
スクリーミングダガーが満足げにうなずいた。
「だいぶハロウィンらしくなりましたね!」
シュショテも、長い髪を揺らして笑う。
「シュショテ、ケーキは?」
「パキケフーズの特製ハロウィンケーキ。ちゃんと用意してますよ」
パキケフーズのハロウィンケーキは個数限定で、本当にレアなのだ。
それを、どういう手を使っているのか知らないが、毎年シュショテはちゃんと手に入れてくる。
「うまそうだな」
スクリーミングダガーは、男らしい外見の通り甘いものは苦手だったが、この特製ケーキだけは別なのだ。
あれほど真剣に本を読んでいたホンディエでさえ、すでに本を閉じて立ち上がっている。
「でしょう。さあ、パーティを始めましょう」
にっこり笑って、シュショテがテーブルにそれをしつらえた瞬間。
じょんじょんっ!!
けたたましい音と共に、二人の魔女が飛び込んできた。
「たのもーう!!」
「…えと…お邪魔ぁ…」
細い体をぴったりとしたドレスに包んだ美しい桜色の魔女と、ものすごくかわいらしいブリブリな紫紺の魔女。
島に緊張が走る。
まるで、雪が降った夜のよう。しんと静まり返って、糸がピンと一本張ったかのよう。
「―――ソング…!」
親の仇のように、スクリーミングダガーは呼んだ。
「―――あら、なにかしら? そんなに引きつった顔をしちゃって…どうかしたの?」
ころころと笑ったソングは、後ろに控えていたリンをさっと前へ差し出した。
「…え、えっ?」
戸惑うリンの耳元で、命令する。
「―――笑いなさい」
「…え…」
にっこり。
真冬の豪雪地帯のように冷え切っていた場が、一気になごむ。
リンは技も使っていないのに、島中に花々をまきちらし…。
たまたま今日はハロウィンだったため、それはすべてお菓子に変わってしまったが、島はお菓子の甘いにおいで包まれた。
「まああ、リンちゃんかわいいね! お菓子もうまそうだ!」
シュショテは喜び。
「…うわわ…っ」
スクリーミングダガーは慌て。
「…相変わらずねぇ」
ホンディエは愛しげに目を細めて。
その隙に。
「Trick or treat!?」
ソングが叫んで、返事を聞く前に…。
あっと言う間にパキケフーズ特製ケーキ(30センチホールサイズ)をパクリと食べてしまった。
「あああーーーっっ!!!」
スクリーミングダガーが叫ぶ。
彼だって、楽しみにしていたのだ。
「ああっ!!!」
シュショテが叫ぶ。
彼だって、楽しみにしていたのだ。…ケーキをホンディエが食べてくれるのを。
「あぁーあ」
ホンディエがため息をつく。
物欲が少ないのでケーキは惜しくないが、スクリーミングダガーがまた嘆くかと思うと…。
雄たけびをあげるスクリーミングダガーの前に、ソングはささっとリンの襟元を正して突き出した。
「…笑って!」
にっこり。
島中にお菓子が散らばり…。
「…うううっ…!」
スクリーミングダガーがうなり、シュショテはたじたじ、ホンディエはやわらかに微笑んで…。
「…でも、ちょっと、ソングちゃん。ひどいわ!」
私だって食べたかったのに、と。リンの頭の中は、自分のことでいっぱいだ。
スクリーミングダガーが水を得た魚のように抗議の声をあげる。
「そうだぞ! せっかくシュショテが買ってきてくれたのに!」
「私もひとくち食べたかったわ!」
リンとスクリーミングダガーに責められて、ソングは一歩後退った。
「…うっ…」
シュショテとホンディエは、黙って見ている。
ソングには、リンに文句を言われるのが一番効くのだ。
「…わ、わかったわよ!」
ソングは、薄い桃色の髪をふわりとまとめていたリボンをしゅるりと解いた。
そして…。
「…わああ〜! かわいい!」
リンの笑顔が炸裂した。もう、ホンディエの島は甘いお菓子で埋め尽くされ、にっちもさっちもいかない状態だ。
「…あげるわ。おいしいわよ!」
ぶっきらぼうな言い方をしたが、ソングはうかがうような目でみんなを見る。
「おいしそう! ソングちゃん、ありがとう!」
ソングがテーブルに出したのは、小さな花々で埋め尽くされたケーキ。
ご丁寧にも、ハロウィンとあってかかぼちゃのケーキだ。そこに、小さな小さな花がひとつひとつ丁寧にあしらわれている。
「これ、アナグラ亭ね?」
ホンディエが嘆息する。
「…えっ!? あの、どこにあるかもわからない店の!?」
スクリーミングダガーは、すげーと素直に驚いてソングを見た。
「さすが、ソングちゃん!」
うふふと笑って、リンは三角帽子を取る。中からは蒸し蒸し蒸されたモイモイさんが、ぐったりと姿を現した。
「切るわよ。ソングもそこに座って」
ホンディエが金のナイフを取り出し、さっそく切り分けていく。
「お茶を淹れますね」
シュショテがとっておきの紅茶を注いで。
「うまそうだな…!」
スクリーミングダガーは皿をならべ。
「いっただきます!」
リンはソングに向かってあいさつをし。
「…どうぞ、召し上がれ」
ソングはわずかに頬を染め、小さく答えた…。




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