受け付け済み設定集

番号:001 最近暖かくなってきた。
ソングは自慢の庭で、太陽の光がさんさんと花達に降り注いでいるのを確認すると
幾つかの種類の花を摘みバスケットに放り込んだ。
花を摘む際、色合いや瑞々しさなどを念入りにチェックし
今年の花は我ながら良い出来だと一人ごちる。
花の本来持っている優雅な美しさや香りは勿論、
透明感のある美しい花弁がきらきらとまるで宝石のように光を反射している。
これならば今年は一段と美味しい紅茶が飲めそうだ。

今日はリンとシュショテとのお茶会の日。
前々から今日を楽しみにしていたソングは棚から新しいティーセットを取り出した。
純白をベースとして控えめに金色で縁取られ、花が描かれている。
皆それぞれのイメージとあわせて選び、悩み悩んだ末に買った物である。
紅茶も特上のものを用意したし、後は彼女たちが来るのを待つのみ。
最後の仕上げ、とばかりにソングは春のうららかな日差しの中、花の手入れを開始した。


数十分後、リンとシュショテがやって来た。
リンは鮮やかな紫の髪の毛に似合う藤色のボレロにスカート、
コサージュをあしらった可愛らしい靴。
透明感の高い透き通った青い瞳が良いアクセントとなっている。
シュショテはリンと同じ格好でさえあったが、ボレロが薄い水色な分クールなイメージを持った。
意思の強そうな瞳はまるで紫水晶である。

「ソングちゃんこんにちはーっ!うんうん、今日も可愛いよっ!」
「お邪魔します。いつ見ても綺麗な島ね。落ち着くわ。」
外見は双子なので似通っているが、二人を見ていると個々の性格が感じられて面白い。
「いらっしゃい。遠慮は要らないから、好きに座って頂戴。」
そう笑って言うとソングは紅茶の準備を始めた。

数分後、良い紅茶の香りがアイランドを包み込んだ。
「はい、紅茶入ったよ。」
「うわぁ、良い匂いだね。なんていう銘柄なの?」
リンが花と紅茶の香りにうっとりと身を任せながら質問する。
「ヌワラエリアね。極上品じゃないの。ソング、何処で手に入れたの?」
ソングの淹れた紅茶は淡いオレンジ色で、優雅でデリケートな花香が特徴的である。
「ん、シューちゃん惜しい。まあ飲めば分かるよ。」
確かにその紅茶はヌワラエリアとは違い、ダージリンのようなアッサムのような、
なんとも言えない味だった。
ただ花の蜜を垂らしたようにほのかに甘く、とても美味しい事は確かだ。
「これは本格的に何の紅茶かわからないわ・・・」
「シューちゃんが分からないなんて、これ何の紅茶?」
リン、シュショテ共に分からない様だ。
それを見たソングは何時も悪戯をする時のあの笑顔で、
「じゃあ夜もう一度お茶会しない?そうしたら教えてあげるよ。」
と嬉しそうに言った。

勿論二人は二つ返事でOKした。
この美味しい紅茶の秘密がどうしても知りたかったのだ。
「じゃあ何時くらいに此処に来ればいいのかなぁ?」
「あ、そうだった。リンちゃんにシューちゃん、ひとつ条件があるんだけど。」
なに?と二人は同時に首をかしげた。こういうところは矢張り双子である。
「えーと、セントクロノスパークでお茶会すること。このくらいかな。」
双子はなんでそんなところで、とまたしても不思議そうにしていたが、いいよと首を縦に振った。
ソングは頭に結んだリボンを揺らしながら楽しみそうに笑い、言った。
「じゃあ、9時にセントクロノスパーク集合。
あそこは冷えるから、ちゃんと防寒してきてね。」
「わかったー!シューちゃん、この前買ったコートを着ていこう?」
「リン、あれは厚すぎるわ。でもあのコート、よくリンに似合ってたわよね・・・」
さりげなくシュショテはシスコンである。姉をよくべた褒めするのだ。
たしかにリンは可愛いが、それはシュショテも同じ顔。
ソングはまあ二人にしか分からない違いがあるのだろう、と考える。
いつか自分にもその違いが分かる日が来ることを願って。

二人と別れた後、ソングは朝バスケットに放り込んだ花を取り出した。
数十時間前に摘んだ筈のその花は未だ瑞々しさを保っていた。
そこは矢張りソングの育てた花だけある。強い。美しいものは強いのだ。
三人分か、足りないかな、と思い直しもう少し花を摘む。
バスケットに溢れんばかりの花を持ち、セントクロノスパークへと向かった。
ソングはもこもこが襟に付いた桃色のケープに下は薄紫と桃色のストライプのワンピース、
といういでたちだったので花売りの少女のようだった。
さくさくと革張りのブーツで小気味良い音を立てながら雪の上をあるく。
春だというのに白銀の世界の広がるこのパークは、"アレ"をするにはピッタリだった。

目的地に到着すると既に二人は来ていた。
昼間言っていたコートを着たのだろうか。御揃いの新しそうなコートを着ている。
リンもシュショテも寒そうにコートのポッケに手を突っ込んでいた。
「ほら、だから寒いって言ったじゃないのシューちゃん。」
「リン、良い判断をだったわね。厚手の物で来てよかった。」
姉妹は白い息を吐きながら会話した。まるで真冬だ。
「ん、じゃあそろそろ始めようか。」
ソングは空を仰ぐと手を広げた。
二人は不思議そうに見ていたが同じように空を仰いだ。
雲ひとつない空。星が良く見えるのもこのリヴリーアイランドの自然が豊かなお陰である。
暫くすると一つ空に輝く一等星が現れた。
スピカだ。
ソングはすう、と息を吸い込むとに詠唱した。
「大いなる恵みの女神様、どうか真珠星の恵みを私にお与えください。」
そして技を使い、足元に溢れんばかりの星を出し続けた。
「私は此処におります。目印をだしておきますのでどうか私を見つけて下さい。」
ソングの足元から零れる星の欠片は空へ昇り、リンとシュショテは黙ってその様子を見ていた。
「この花びらに、その稲の穂先、スピカの恩恵をお与えください。」
ソングは高々とバスケットを掲げた。
花びらは輝きだし、星の欠片は金平糖となって三人に降り注ぎ、スピカの輝きが増す。
その光景は正しく幻想的であった。
とどめとばかりにソングは技を使って花を出現させた。
するとその花々は砂糖細工のように透き通った飴になった。

ふう、と息を吐いてソングが戻ってくる。
「終わったよ。これがあの紅茶の正体。」
ソングの持ったバスケットの中には茶葉のようになった花びらが入っていた。
地面に咲いた飴細工を回収しながらソングは悪戯が成功したときのあの笑みで言った。
「じゃあ寒いし、やっぱり何処かの島でお茶会しましょうか。」
リンはまだスピカを眺めていた。
「すごいね、あんな星にこんな力があるなんて。」
ほう、と本当に感動したのだろう、顔が赤くなっている。
「せっかくの申し出だけど、此処でお茶会にしない?
私、今日はあの星を眺めながら紅茶を飲みたい気分になったわ。」
シュショテは柄にもなくロマンチックな事を言った。
ソングは少し驚いていたがいいよ、と紅茶の準備を始めた。

紅茶を淹れ終わると一息ついてから、その辺の適当な切り株に三人は腰掛ける。
ソングは一口紅茶を飲むと、ああ、温度が温かったかなと零した。
「やっぱり採りたて?はおいしいねぇ。
それにしても、ソングちゃんはどうしてあんな事が出来るの?私とっても吃驚しちゃったじゃない。」
リンが問うと、ソングではなくシュショテが答えた。
「幾つかの技を組合わせての応用呪文ね。
でもこんな大きな力は無いから、自然の力を借りて補ったと。そんな所じゃない?」
「うん、シューちゃん大正解だよ。ただ月じゃなくてスピカを使ったのは理由があってね。」
「それについても考えてみたの。月では恵みをもたらす力は引き出せなかったんじゃあないの?」
ソングは少し残念そうに、種明かしは私がやりたかったのに、と呟いてから、
「そう。スピカを使ったのは恵みの星だからなの。
稲の穂先、とか真珠星とも呼ばれていてね。
乙女座―豊穣の女神様のもっている稲の穂先を担う一等星なのよ。」
空には噂の一等星が輝いている。
白銀の世界にさしこむその光はどこか神聖な物だった。

「そうそう、昼間のお茶会で二人のカップに描かれてた花、覚えてる?」
うん、と二人は答える。
「あのお花、綺麗だったね。結構好きかも。東洋な感じだった。」
リンがうっとりと言う。
「そう、よかった。実はその花があるのです。」
ソングは先ほどの飴細工の花を取り出した。
一つは松葉牡丹。リンのカップに描かれていたものだ。
そしてもう一つはクレチマス。こちらはシュショテのカップである。
「紅茶に入れてみて。」
二人は言われたとおりに花をカップに入れた。
それぞれの花が水連のように紅茶に浮かび、おしゃれだ。
しばらくすると花は紅茶に溶け、色がそれぞれの花びらの色へとほんのり変化した。
「おいしい。味が変わったわね。」
「なんだか私のは甘くなったよ?」
「え、私のは深みが増しただけで甘くはなっていないわよ?」
二人とも不思議そうながらもそれぞれの味を楽しんでいる。
「これは花言葉によって味が変わるのです。」
そんなロマンチックな事があるだろうか、と思うが実際味が変わるのである。
「お洒落ね。ちなみに松葉牡丹とクレチマスの花言葉は?」
シュショテが問うがソングはにこにこ笑うだけで答えない。
「それは自分で調べてのお楽しみと言うことで。」

他愛無い会話を楽しそうに交わす三人を、スピカの柔かい光が包み込むように照らしていた。





松葉牡丹→かわいさ/無邪気
クレチマス→高潔/心の美しさ




---Livly Island---
『Livly Island』『リヴリーアイランド』は、ソネットエンタテインメント株式会社の商標です。
リヴリーアイランドに関わる著作権その他一切の知的財産権は、ソネットエンタテインメント株式会社に属します。
このサイトは『リヴリーアイランド』およびソネットエンタテインメント株式会社とは一切関係がありません。