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番号:005 9月中旬のある朝、リンは何時もの様に自室で編み物を編んでいた。

「(ココに毛糸をくぐらせて…うん、上手くできてるわ。)」

最近では不器用ながらに毎日日課として続けているお陰か、一人でもまともな作品が作れるようになってきた事はさり気無く彼女の自慢でもあったりした。
季節的に肌寒さが目立ってきた事も重なり、リンの編み物作りは本格的になってきたと言えるだろう。
着々と進む作業に知らず知らずの内に気分が高揚していく。

「ねぇーリン、あたしつまんないんだけど」

まるで独り言の様な一言だったが、リンの集中を殺ぐのには効果覿面だったようだ。
途端にリンは後ろを振り返り、金切り声とも呼べるであろう声量で怒鳴る。
気分が乗っていただけに、リンの苛立ちは際立った。

「煩いわねシュショテ!!今私が忙しいの分からないの!?」
「なによ、本当のこと言っただけじゃない。それにリンのが煩いと思うけど!」
「そんな事ないわよ!今いい所だったのに!!」

目を吊り上げて怒るリンに怒鳴られた少女、シュショテは唇を尖らせた。
ただ、シュショテ自身も特にリンを怒らせようとして声を掛けた訳ではない。
自分が傍に居るというのに、編み物を優先するリンの気を引こうとしたのだ。
しかし予想外の切り返しに、自分の強気な性格も相まってつい喧嘩腰になってしまった。
なんとなく自分が悪い気がして、シュショテは黙り込んでしまう。
一方のリンといえば、手元の編み物に視線を落として動かずにいた。
シュショテに怒鳴った後、リンは編み物の作業を再開しようとしたが、急に興奮した所為かまるで集中する気になれなかったのだ。
冷静になったリンの心情には強い後悔の念が押し寄せる。

「(…私、ちょっと大人気なかったかしら…怒鳴る事なかったかも…)」
「リン、」
「!…なに?」

再び振り向いたリンの視界には眉根を寄せてしょんぼりとしたシュショテが映った。
普段元気一杯なシュショテを見続けているリンとしてはその表情がとても辛そうに見える。
そしてシュショテにそんな表情をさせているのが自分だと思うと又もやリンの後悔の念が強まった。

「ごめんね、リン…あたし、リンが構ってくれないのがちょっと寂しくて…」

目を伏せて黙り込むLinnの鼓膜をシュショテの声が淡々と震わせた。

「リンが集中してる時に声掛けちゃって、ごめん…。」
「い、いいわよそんなの…別にシュショテが気にする事じゃないわ!」

シュショテの声がどんどん震えていく事に驚いたリンは慌てて駆け寄った。
案の定、若干涙目になっているシュショテの手を握ってあやす様に喋る。

「私も、あんなに怒鳴っちゃってごめんなさい…そうよね、編み物なんて何時でも出来るのに、私ったら…本当にごめんなさい…!」
「…そんな、いいよ。あたしも悪かったたんだし!…でもあたしもリンも、もう少し大人にならないとダメだね?」
「…そうね、その通りかも。」

ふふ、と顔を突き合わせて笑うリンとシュショテからは先程の刺々しい雰囲気は消えていた。
替わりに漂う穏やかな雰囲気は2人の友情が更に強まった証でもあった。


バン!


「リン!悪いな勝手にあがらせて貰ったぜ!お、シュショテも一緒か!」

突如ドアを蹴破らん勢いでその部屋に入ってきたのは青い青年、スクリーミングダガー。
意気揚々と挨拶をした後は手に持っていた荷物を机の上に放り投げた。
そして無反応なリンとシュショテに向き直って首を傾げる。

「あれ、どうかしたのか?」
「スクリーミングダガー、君って奴は…」
「うふふふ。貴方今流行の『空気読めない』人になってるわよ。」

スクリーミングダガーの後から、溜息混じりに額を押さえたホンディエと、笑顔で毒を吐きつつソングが部屋に入ってきた。
未だにスクリーミングダガーを白けた視線が貫いていた、



*   *   *



「いや悪かったって!そんな冷たい目で俺を見るなよ!」
「「………。」」

3人が持ってきた洋菓子を口に運びつつ、リンとシュショテの視線は冷ややかであった。
事の元凶であるスクリーミングダガーは冷や汗をかきながらリンとシュショテに謝罪をしていた。
そんなスクリーミングダガーを見て、ホンディエは呆れたように呟いた。

「全く、君は無神経過ぎるんだよ。幾ら顔見知りだからと言って勝手に人の家に入り込んで。」
「だってしょうがないだろ!早くこの菓子が食べたかったんだから!」
「へぇ。結局スクリーミングダガーはこのお菓子が食べたいだけだったの。」
「ふぅーんそうだったのスクリーミングダガー。」
「(怖い!)」

ホンディエの言葉を口火に、リンとシュショテが放つ言葉は必死に弁明するスクリーミングダガーに確実にダメージを与えているようであった。
逃げ場が無く追い込まれているスクリーミングダガーを見かねたソングが助け舟を出す。

「でもこのお菓子は本当に美味しいから。スクリーミングダガーも皆で一緒に食べたかったのよ。」

ソングの言葉に我が意を得たりと言わんばかりにスクリーミングダガーが頷いた。

「まぁソングが言うのなら本当かもね!」
「信じてあげないでも無いわよ、スクリーミングダガー。」

すっかり納得した様子の2人にスクリーミングダガーがちょっぴり落ち込んだのは言うまでもない。
そしてその肩をホンディエが優しく労わる様に叩いた。

「ああそうだわ、リン、シュショテ。貴女達に渡すものがあるの。」
「「渡すもの?」」
「おおそうだそうだ!俺も持ってきてたんだった!」
「僕も、2人宛に用意してあるよ。」

同時に聞き返したリンとシュショテに微笑みつつ、ソングは頷く。
それに便乗したようにスクリーミングダガーとホンディエもにこやかに笑う。
一体何の事だろうと顔を見合わせる2人。
そんな2人を楽しそうに見つめながら、ソング、スクリーミングダガー、ホンディエは一斉に両手を2人の前に突き出した。

「「「リン、シュショテ、お誕生日おめでとう!」」」

3人の言動に心の底から驚きつつ、リンとシュショテは手渡された包みを手にする。
目を白黒させるリンとシュショテにソングが説明した。

「ほら、わたしたち何だかんだ言って2人の誕生日に全員集合できなかったでしょう?」
「だからさ、遅れてでも皆でしっかり祝いたいと思って。」
「誰かが欠けていちゃ、つまらないからね。ちょっとしたサプライズのつもりだったけど…どうだい?今の気分は。」

ソングは相変わらず花の様な笑顔で。
スクリーミングダガーは大きなホールのケーキを出しながら。
ホンディエは悪戯っぽく問いかけて。
リンとシュショテは小さく噴き出して言った。

「「最高!!」」

9月の中旬。肌寒い風が吹く季節。
5人の笑い声が響いていく。



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